レーザーを用いたATLAS SCT 検出器の性能評価
装置の概略説明 PDF
- レーザー出力中に暗箱を開けないこと(interlockあり)
- シリコンバイアス印加中に暗箱を開けないこと(interlockあり)
- シリコンに負の電圧(順バイアス)を加えないこと(softwareにはcheckあり)
- モジュールを直接手でさわったり唾をかけると劣化します:手袋、マスクの着用
- ステージを動かす前に、規定の圧力が供給されていることを確認すること(interlock検討中)
測定プログラムの起動とデータ収集の概略
ATLASデータ収集(DAQ=data aquisition)を行うsctdaqプログラムはC++で書かれて
いる。このプログラムはWINDOWSシステムでは、Visual C++を基に、root上での
CINT C++インタープリタで実行される。そのため、通常のC++に比較してinclude
fileの取り扱いができないなどの制約があるが、そこに注意すればかなり自由に
プログラミングができる。
実行にあたっては、まず、rootを起動する。次にRintの
windowで、
.x XTsetup.xpp()
とすると、
ROOT interface to WIN32 のwindowが現れ、これを介していくつかの基本的処理
ができるようになる。また、データ収集に必要ないくつかのセットアップを完了する。
この間、
VMEの電源を入れた直後の場合は、残ったメモリのクリアをするのでreturnを押す
する。
以降は、D:\sctvar\macrosにある、
以下に示すマクロによりデータを収集する。
rootから抜け出るには、Rintで
.q
と入力する。CINT
の制限のために、途中でデータ収集がコケたりすると以降は走らなくなることがある。
この場合は粘らずに、.qで抜け出て最初からやり直す。
マクロのパラメータは引数で渡されるが、特定の省略型は定義されている。
その場合は、
D:\sctvar\macros\laser.txtに書かれたデフォルト値を
使うようにしている。
このファイルには、マクロの引数では変更できないデフォルト値も
設定されているので、適宜変更してからマクロを
実行すること。
結果は以下に示す形式でD:\sctvar\data\laserに書き
出される。当面の約束としては、
必要な結果は別のフォルダに移動し、
このフォルダ内のファイルは消去しても文句を言わないこととする。
SCTDAQと独立して、ステージを制御するCプログラム
stage_C.exeがある。この使用法と以下のモジュール位置較正法は
ここ
を参照。これによりSCTDAQと連携させて、例えばレーザー位置を変えてデータを
取ることができる。
ストリップ番号
を自動的にスキャンするにはモジュール位置の較正が必要で、その較正もこの
プログラムを使って行う。
測定項目を以下の4つのカテゴリーに分類したので、どんどんデータを取って、
SCTシリコンマイクロストリップ検出器の性能を理解しよう。
シリコン検出器の基本性能およびレーザー測定の基本を知る
- 1A: 電流ーバイアス電圧曲線 (IV カーブ)
検出器への逆バイアス電圧を変化させると、バルク部からの暗電流や表面を
伝わって流れる暗電流が増加する。全空乏化電圧を超えると、バルク部電流は
一定になる。測定に用いている検出器の全空乏化電圧は100V以下なので、その様子
が分かる。できの悪いものは表面電流が多く、また、マイクロ放電と呼ばれる、
局所的な高電場による暗電流の増加が見られる場合もある。
ATLASモジュールの耐圧は500Vなのでそれを超えては印加しない。
マクロ: laser_iv_cntl(350,10,0)
データ: laser_iv.dat(データは最後の測定にappendされるので必要な分は抜き取る事)
説明:電圧350Vまで10V間隔でIーV測定を行う。最後のパラメータ0は電圧を
変えながら閾値曲線を測定しないモードである。パラメータ1の場合は21に
後述する。
結果:
- 1B: IVカーブの温度依存性
温度により半導体の性質は変り、バルク部電流はシリコンに特有な温度依存性を
示す。冷却温度を変えて暗電流を測定する。 但し、温度モニターはハイブリッドにしか
無いので、正確な温度依存性は恒温槽の中に入れないと分からない。
マクロ、データは1Aと同じ。
結果:
- 2A レーザー信号を入れて閾値曲線
逆バイアス電圧を全空乏化電圧よりも高く設定し、閾値曲線を取る。その為に、
レーザーをON(電源スイッチ、EXTERNAL, EMISSION)とパルサーの電源を忘れずに。
シリコンのバイアス印加のために以下のマクロを実行する。
マクロ: hv_cntl(150,10)__150Vまで10Vステップで電圧印加
バイアスを0Vに戻すには、
hv_cntl(0,10)で良い。レーザーの焦点を合わせ、測定する
stage_Cで例えば20番ストリップ位置にレーザーを入射する。モジュール位置較正済みであれば、特定のストリップに移動、で良いが、較正されていない場合は、モニター画面
を見ながら合わせる。(バイアスリングの隣からストリップ番号0,1,..と数える)
入射したらバイアスを加え、以下のどれかのマクロで閾値曲線を測定する。
マクロ:XTThreshold(10,30,100,1,0,0/1,20)
マクロ:XTThreshold(10,30,100)
マクロ:XTThreshold(0/1,20)
マクロ:XTThreshold()
データ:XTThresh日付時刻.dat, XTThresh_neighb日付時刻_link番号_strip番号.dat
説明:100events, comp mode=1, edge=0でstrip10-30を
記録する。strip20と21のデータをフィットして効率=50%の電圧などを評価する
(つまり隣もフィットする)。0/1は表面(0)か裏面(1)かの測定を意味しlink番号
と呼ばれるもので、どちらかを
選択する。該当する引数が省略された場合はlaser.txtのデータが使われる。但し、
記録するstrip番号に限っては省略された場合、フィットするstrip番号の
前後5stripが選ばれる。
- 2B: レーザー信号を切って閾値曲線
逆バイアス電圧の設定は2Aと同じ。信号が入らないからノイズの測定になるが
エレキの特性のために設定に注意しなくてはならない。
ノイズは信号より小さいから、閾値の領域を2Aより低くする。直接、laser.txtの
最初の2行を書き換える。
マクロ、データ: 2Aと同じ、もしくはXTThreshold(10,30,100,0,0,0/1,20)
結果:
2Aと2Bの差がレーザーによる信号である。アンプの増幅率約60mV/fCで信号を換算し、
ATLAS実験で期待される電荷量3fCと比較し、あまりずれていないことを確認する。
- 2C: 参照光等の測定への影響を調べる
逆バイアス電圧を設定しレーザーを入射する。参照光や顕微鏡視野光を変えて
閾値曲線がどう変るか測定する。合わせて暗電流の変化も記録する。
マクロ、データ: 2Aと同じ
結果:
レーザーの性能を知る
- 11: レーザーの安定性
レーザー出力は最大の1mWに設定し、特定のチャンネルに照射し続けることで
レーザー出力の安定性を評価する。特に温度が一定しない電源ON直後などは
変化が予想される。
マクロ:XTThresh_repeat(30,4,0/1,20)
データ:2Aと同じ
説明:link 0/1のstrip20の曲線をフィットし、4分間隔で30回測定する。
結果: 2つのグラフは(上)測定前に12時間使用(下)
2時間はOFFにしておいた、の違いである。RMSはそれぞれ1.2%, 1.7%となった。
- 12: 焦点深度による違い
レーザー光は殆んど通り抜けるので、焦点が多少ずれても発生する電荷量に
大きな違いは無いと思われる。Zステージで焦点深度を変えながら、閾値曲線を
取る。まず、Zステージのメモリと移動距離の対応をとっておくこと。
マクロ:2Aと同じ
データ:2Aと同じ
結果:平均電荷と拡がりを示す。Z=0はシリコンの
表面で、Z>0は焦点がシリコンの上方、Z<0はシリコンの内側(厚み300um)を意味する。
Z=0,+90,-240umでの閾値曲線を参考のために ここ
に示す。
- 13: レーザースポットサイズを変えてみる
測定は12とおなじ。但し電荷量によって、閾値範囲を調整する必要あり。閾値の
最大値は640mV(2.5mV間隔8ビット)である。
結果:
- 14: レーザーパワーを変えてみる
測定は12とおなじ。レーザーパワーを変更するには、CONTROLの直ぐ上の矢印の書い
てないボタンを押してWATTSを表示させる。上矢印、下矢印によって値を設定する。
レーザーパワーを落すと時間分布が悪くなったりするので、基本的には1Wが好ま
しい。
結果:
レーザーを使って詳しく性能を評価する
- 21: バイアス電圧による収集電荷の変化
検出器への逆バイアス電圧を変化させる。全空乏化電圧以下では、バルク部の
一部はキャリアが残る状態にあるため、レーザーにより発生したキャリアは再結合
のために効率的に信号を発生できない。この未空乏化の厚さはバイアス電圧を上げる
と減少するので、収集できる電荷量は次第に増加する。但し、ストリップ型電極の
性質のため、全空乏化電圧を超えても直ぐには最大値に達しない。
適当に広く閾値領域を設定して、バイアス電圧を変える。
マクロ: laser_iv_cntl(350,10,1)
データ: 1A
説明:1Aとの違いは最後のパラメータ1であり、電圧を変えながら
閾値曲線を測定する。
結果:
- 22: 隣接するチャンネル間の信号分離
隣接するチャンネル間の信号分離は、シリコンバルク内に形成される電場分布とホール
移動中の拡散により決まる。レーザー位置をstage_C.exeで変えながら閾値曲線を測定
する。最初は十分電圧を高く設定する。
マクロ:2Aと同じ
グラフ:2Aと同じ
説明:2Aの例ではパラメータをstrip20に設定し、strip20とstrip21の間に
レーザーを入射すれば信号分離が測定できる。
結果:
- 23: 信号分離のバイアス依存性
シリコンバルク内に形成される電場分布はバイアス電圧で変るし、ホールの移動
速度も変るため拡散の程度の変ると来たいされる。電圧設定を変え、22
と同様にして、レーザー位置をstage_C.exeで変えながら閾値曲線を測定
する。
マクロ:2Aと同じ
グラフ:2Aと同じ
結果:バイアス電圧200V
結果:バイアス電圧100V
- 24: ストリップに沿った収集電荷一様性
読み出しに近い位置で発生した電荷に比較して、ストリップの先端部で
発生した電荷の収集は劣化するかもしれない。ストリップからの位置を
一定にしてストリップに沿って一様性を測定してみる。
マクロ:2Aと同じ
グラフ:2Aと同じ
結果:
- 25A:周辺部での収集電荷効率
ストリップ間の構造と比較して、周辺部の構造は複雑である。それらの場所での
電荷収集効率を特定のバイアス電圧で測定する。
マクロ:2Aと同じ
グラフ:2Aと同じ
結果:
- 25B: 周辺部での収集電荷効率を電圧を変えて測定する
24Aの測定で、収集効率が劣る場所が見つかったら、電圧依存性も測定し原因を
特定する。
マクロ: laser_iv_cntl(350,10,1)
データ: 1A
結果:
- 26: 検出器の角度を変えて電荷量や信号分離を測定する。
ATLASでは検出器は10度の角度をもって設置される。これは磁場中のLorentz力
を考慮して最良の信号分離になる角度である。また、低運動量の荷電粒子は角度
をもって入射する。この場合の性能を評価する。
マクロ: laser_iv_cntl(350,10,1)または2A
データ: 1A
結果:
SCTDAQとシリコンの時間特性を理解する
- 31: データ圧縮モードを変えて閾値曲線をとる
マクロ: 2A
データ: 2A
結果:
- 32: 各データ圧縮モードについてレーザータイミングを変えて閾値曲線をとる
レーザーとL1Aのタイミングは2つのパルサーからのTTL信号とNIM信号の時間差で
決っている。現行の850nsを適当に変更して閾値曲線をとる
マクロ: 2A
データ: 2A
結果:
- 33: パイプラインセル番号を変えてみる
32の850nsの設定はレーザー発振の遅れ、SCTDAQの遅れとともに、読み出すパイプライン
セルの設定でも決まる。laser.xppの始め辺りに
XTSetTriggerDelay(121)
により121番目に設定しているので、この数字を変えてからタイミング曲線を取って
みる。
マクロ: 2A
データ: 2A
結果:
- 34: シリコン信号の伝達時間を測定する
32で信号のタイミングに最も敏感な条件を求め、その条件で読み出しアンプの近くに
レーザーを入射したときと遠くに入射したときの時間差を測定する。
マクロ: 2A
データ: 2A
結果:
量産センサーの性能を評価する
- 41: バイアス電圧の上下を繰り返した場合の応答安定性
ATLAS実験中は検出器バイアスの再設定を何度か行い、その間は一定の電圧(=burnin_hv
と呼ぶ)でデータを取る。この状況を模擬するために、IV曲線を取りながら
閾値曲線をとることを繰り返す。
マクロ: laser_iv_repeat(300,20,30,1)
データ: iv_curve.txt, iv_repeat.txt, i_stability.txt (ともにAppendされる)
説明:300Vまで20VステップでIVを取り、閾値曲線も取る(最後のパラメータ)。この
サイクルを30回繰り返す。burnin_hvの設定(現行は150V)や繰り返し間隔Tinterval,
burnin中の電流モニターの間隔Tmonitorなどはlaser.txtにある。
結果:
- 42: ストリップ応答一様性の測定
ATLAS用のモジュールは様々な品質試験をパスしなくてはならないが、電気的
テストはIV特性を除いてすべてテストパルスによるものである。実際に各ストリップ
にレーザーを入れて信号を観測することで、センサー自体を含めた総合的な評価
が可能となる。
特定のストリップに移動するためにはモジュール位置の
較正が必要で、これは既に完了しているものとする。
マクロ:.x Noise.xpp(0)または.x Noise.xpp(1)
データ:Noise_0.fit または Noise_1.fit
説明:モジュールを設置したら、ノイズのデータを取り、測定面が表面か裏面かに
対応して(0または1)その面のノイズの50%点をフィットし以下の一様性の評価に
用いる。
測定面に対応してNoise_0.fitまたはNoise_1.fitのファイルが
作成される。
マクロ: XTThresh_scan(0,1,1000,25,100)
データ: XTThresh_scan日付時刻.dat
説明:最初のパラメータ0は表側の測定を意味する(裏側の測定は1)。strip 1-1000
までの閾値曲線を取るが、このような大きな数字の場合は最大値|は768に設定し直さ
れる。裏側の場合もstripは1から768までの範囲である。ストリップの中心から
25umずれた位置で100eventsでの閾値曲線を取る。
結果:テストモジュール33;HV=150V
参考文献1:
A new laser test stand for simulating charged-particle tracks
: laser装置の理解に
参考文献2:
筑波大学 秋元崇の修士論文: sctdaqの概略の理解に