フェルミ国立研究所では、加速器の真上の地表に道路が敷設されている。写真奥の円周がTevatron加速器。 |
米国フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)で2011年まで稼働したTevatron加速器は、 LHC加速器が稼働するまで、世界最高エネルギーで素粒子物理学を研究できる加速器実験でした。 本研究室では、Tevatron加速器を用いた陽子・反陽子衝突実験 Collider Detector at Fermilab (CDF)に、 その設立時から参加し、粒子検出器の開発・建設・運転、本実験でのデータ取得、その物理解析を通して、貢献しました。
Tevatron加速器では1987年に初めての陽子・反陽子衝突を記録した後、1996年までは重心系エネルギー1.8 TeVで、 2000年から2011年までは1.96 TeVでの運転を行いました。 全運転期間を通して世界最高エネルギーでのハドロン衝突型加速器での実験であったCDF実験では、 電弱統一相互作用の物理、トップクォークの性質の研究、B粒子の物理、量子色力学の検証、 ヒッグス粒子の探索、標準模型を超える新粒子・新現象の探索なでさまざまな素粒子物理研究を行いました。 本研究室では、CDF実験での研究成果により、全38名の博士号取得者が輩出しました。
CDF実験では多くの重要な研究結果を発表しましたが、その中のいくつかを挙げると以下のような成果が含まれます。- トップクォークの発見: Phys. Rev. Lett. 74, 2626(1995)
- Bcメソンの発見: Phys. Rev. Lett. 81, 2432 (1998)
- Bs-Bs振動の発見: Phys. Rev. Lett. 97, 242003 (2006)
- トップクォークの単一生成過程の発見: Phys. Rev. Lett. 103, 092002 (2009)
- ボトムクォーク対に崩壊するヒッグス粒子の兆候: Phys. Rev. Lett. 109, 071804 (2012)
- Wボソン質量の精密測定: Science 376 (2022) 6589, 170
CDF検出器。2000年からのランに向けてシリコン検出器をインストールした際の様子。 |
Tevatron加速器の運転期間の終盤には、運転を開始するLHC加速器よりも先にヒッグス粒子を 発見しようと、多くの共同研究者がデータをくまなく解析しました。 結果はエネルギーが高いLHCの1年目のデータでヒッグス粒子の兆候が確認され、さらに次年度の はじめ3か月のデータを解析した時点でヒッグス粒子が発見されましたが、この時期のヒッグス粒子 発見に向けたレースはものすごい緊張感と興奮でした。 一方で、陽子・陽子を衝突させるLHC加速器も、Tevatron加速器と同じくハドロン衝突型加速器です。 ハドロン衝突型加速器は、高いエネルギーでの素粒子実験をしやすい反面、データ解析手法が複雑で難しく なる傾向があります。 Tevatron加速器で培った検出器校正法や物理解析手法の多くが、そのままLHCでの実験に引き継がれたことで、 LHC実験がスムーズにスタートした側面もありました。 本研究室で博士号を取得した卒業生の中にも、その後LHC実験に参加し活躍している研究者が何人もいます。
- CDF Japanウェブページ
- 高エネルギーニュース Vol.41 No.2 2022/07.08.09「CDF実験によるWボソン質量の測定」 (本研究室 受川が執筆)
- 高エネルギーニュース Vol.30 No.4 2012/01.02.03「CDF実験での物理」 (本研究室 受川、佐藤、武内が執筆)
- 高エネルギーニュース Vol.30 No.4 2012/01.02.03「テバトロン衝突型加速器の運転終了に伴う歴史的なまとめ」 (本研究室 金が執筆)